Profile

北岡一樹

医療法人社団予防会 新宿サテライトクリニック 院長
三重大学医学部卒業。卒業後、同大学医学部附属病院で研修を行ったのち、細菌学研究を志望し、名古屋大学大学院医学系研究科細菌学博士課程へ入学。様々な薬剤耐性菌の分子疫学研究に携わり、培った細菌学研究のさらなる発展を求めて早稲田大学理工学術院で招聘研究員として研究を開始。同時に、医療法人社団予防会新宿サテライトクリニックで性感染症診療も開始し、現在、院長を務めている。社会実装を視野に入れ、臨床と基礎を繋ぐ、研究医かつ臨床医であることを目指し、現在はファージセラピーの研究に注力している。
北岡一樹

Doctors Word

研究する臨床医として、臨床と基礎の間を繋ぐ

現在の仕事についた経緯は?

もともと細菌学研究をしたいという思いを抱きつつ、医師となりました。研修医として働くうちに患者さんとの触れ合い・治療も楽しくなりましたが、昔からの思いを忘れられずに細菌学の基礎研究を開始しました。細菌学研究を続ける中で、基礎医学的な研究と臨床現場のギャップが大きいことに気づき、それを埋めるような医師になりたいと思うようになりました。そこで、細菌学研究を継続しながら、再度、性感染症診療として臨床を開始しました。研究としては、早稲田大学理工学部の基礎医学的な研究と、私の臨床現場の目線を繋げて、新規感染症治療を社会実装することを目指し、ファージセラピーという研究に注力しています。

仕事へのこだわり

まず、エビデンスに基づいた診療・研究をすることを心がけています。Webによって様々な文献に簡単にアクセス出来るようになっていて、エビデンスがある意味“乱立”しています。そこで、診療においては、日本語の媒体等だけを基にして診療するのではなく、必ずメタアナリシス解析されているUpToDateなどの文献を根拠とするようにしています。研究に関しても、思い込みのみで研究を開始したりしないように、疑問等生じた場合は、必ず複数の文献を読み込み、エビデンスを持って研究に向き合うこととしています。そして、基礎と臨床を繋いだ研究を行うよう心がけています。今までの医療的な状況においては、どちらか一方になっていて、医療の発展として勿体ない状況です。研究医は基礎的な研究に従事する状況になることが多いです。臨床医はなかなか研究までできないことも多く、また、研究に従事しても臨床的な研究のみで、メカニズム的なものまで踏み込めないで終わることが多くあります。そこで基礎と臨床を繋いだ研究を行うことを目指し、臨床として現場として困っている視点を失わずに、基礎的なことまで理解して研究を進めるようにしています。 さらに、常に謙虚であることも心掛けています。診療においては、診療科の特性上、若い患者さんが多いです。礼儀として当然ではありますが、敬語で会話し、必ず傾聴し、一方的な診療になってしまわないようにしています。そして、研究においても、学生さんと一緒に研究する機会が多いので、学生さんの意見を否定したりはせず、対等な立場で議論しながら、研究を進めています。

そう思えるようになったきっかけ

エビデンスを意識することに関しては、昨今のSNS等の情報発信が増加し、エビデンスのない発信が多いことに気づいたことがきっかけです。専門家でも、一部の文献のみを根拠に発言していることが多く、メタアナリシスを意識する必要性をひしひしと感じています。 基礎と研究を繋いだ研究に関しては、早稲田大学で研究を開始したことがきっかけです。早稲田大学で研究を開始した際、早稲田大学ではメカニズム的な観点から組み立てられた緻密な基礎医学の研究をされていましたが、実臨床の視点がなく、臨床応用という点で勿体ない状況であると感じました。また、今までの医学部の基礎研究もやはり、臨床現場の視点が欠け、メカニズムに寄ってしまっていたと感じました。現状では、研究と臨床の解離が大きいですが、医学研究というのはあくまで、最終的に臨床に応用することが大事であり、その解離を繋ぎたいと思うようになりました。また、このようなことができるのは、理工学部に身を置きながら、臨床もしているような稀有な背景を持つ医師である自分ではないかと思い、使命のように感じています。

今後の目標

今後も、基礎と臨床を繋いだ、研究する臨床医を続け、特に理工学部で行われている素晴らしい研究を臨床導入し、理工学と医学のトランスレーショナルを起こし、基礎研究を、最終的に社会的な実装まで持っていくことを目指しています。まずは、新規感染症治療を基礎研究から、実際の臨床現場へ届けようとしており、そのなかでもファージセラピーという新規感染症治療法に注力しています。ファージセラピーとは、バクテリオファージと呼ばれる細菌にしか感染しない生物を投与し、感染症起炎菌に感染、溶菌させて細菌除去する治療法であり、まさに、今までは理工学的な研究が中心であり、臨床との連携が不十分で応用が進んでいなかった新規治療法です。臨床現場の視点から、まずは犬や猫の感染症への応用がハードル面で低いと捉え、開発を進めています。映画「犬部!」のモデルとなった太田先生など獣医先生方のご協力も得て、研究費を募るクラウドファンディングも開始し、社会的認知の普及も目指しています。そして、私が診療している性感染症に対しても新規感染症治療法を開発、臨床導入し、患者さんに還元することを目指しており、まずは細菌性膣症へのファージセラピーの臨床導入を進めています。

※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。