Profile
石井翔
だいだいクリニック 院長
神奈川県出身。
開成中学校・高等学校卒。
2009年信州大学医学部医学科卒業。
2011年~2018年東京女子医科大学脳神経外科医局。
日本一の手術数と指導の厳しさを誇る東京女子医科大学病院脳神経外科で、一貫して手術に携わり、卒後2年目には開頭手術の執刀を任された。同大学病院ほか、関連する関東、東海地方の各地域中核病院に勤務。救急診療、一般脳神経外科診療に携わる。これまで脳血管障害、良性脳腫瘍を中心に600件以上を執刀。開頭クリッピング手術、バイパス手術、脳腫瘍摘出術などで良好な成績を残す傍ら、丁寧な外来診療に定評がある。2020年「手術を受ける事態にならない予防医療」と、従来の診療体制でカバーできない患者の苦しみに正面から立ち向かうべく、東京・九段下にだいだいクリニックを開院した。
Doctors Word
苦悩も人生の彩り
現在の仕事についた経緯は?
10代の頃、人が生きるとはどんなことなのだろうか、というもやもやとした気持ちを経て、医師を志しました。医学部に進学してからは、医師とは何かというテーマが頭から離れることはありませんでした。医師になった後は「脳に近づけば、人間を知ること、命を知ることに繋がるかもしれない」という直感から、迷うことなく脳神経外科へ進み、ひたすら手術に明け暮れました。しかし手術への自信が増すほどに、また臨床医の現場を知るほどに、考えることはより現実的なものとなりました。明確になったのは、誰もが手術を受けずに済んで欲しい、命を幸せに生き切って欲しいという願いでした。様々な出会いと巡りあわせで機が熟し、その思いをストレートに実現すべく、開業を実行しました。これからも「人間とは」「命とは」「医師とは」と自分へ問い続けると思います。
仕事へのこだわり
医師と患者はパートナー
手術に明け暮れていた頃、患者さんによくこう話していました。「あなたの脳に異常があるのは事実である。それはあなた一人では治せない。私一人でも治せない。異常は私たちの共通の敵であり、一緒に立ち向かわないといけない。だから病気についても、手術についても、あなたにも私と同じくらいよく知って欲しい」。病気は甘いものではありません。困難に立ち向かうとき、患者さんと医師が思いを同じくすれば、大きな力になります。幸せに一緒に向かうパートナーとも言えるでしょう。医療情報には誰もが簡単にアクセスできる時代になりました。だからこそ、寄り添うことのできる医師の役割は大きくなっていると思います。患者さんも、医師も、病気の前ではどちらも小さな人間であることを忘れてはいけません。
人生そのものを尊重したい
私は「手術適応」という言葉は好きではありません。手術の最終決定は医者ではなく患者さんがするものです。手術で幸せになるのは、患者さんです。この発想は、一般外来でも同じだと思います。例えば生活習慣病も、ガイドライン通り治療適応を判断し、自動的に治療を開始するだけなら、医師でなくAIで十分でしょう。どんな治療も、結果につながらないと意味がなく、それはさらに患者さんの幸せにつながる必要があります。生活習慣病は、自業自得では決してなく、その方がそれまで必死に生きてきた「業績」とも言え、生活習慣病を診ることは、個々の「人生」を尊重することから始めないと上手くいきません。患者さんは診察室でデータだけでなく私の顔色も観察されていますからね。そもそも、健康の為に生きるのではなく、生きる為の健康であり、健康の主役はあくまで患者さんの「人生」です。患者さんの人生に、生身の医師との出会いがある。その責任こそ、医者のやりがいなのではないでしょうか。
そう思えるようになったきっかけ
医療を仕事にするいいところは、個人の経験を、そのまま芸の肥やしにすることができること、だと思います。私自身にもこれまでの人生で人並に色々と困難もあったように思います。弱さと葛藤を抱えながら、どれだけの温かさに救われてきたか分かりません。今でも白衣を脱げば、不完全極まりない一人の男です。手術は、私にありとあらゆることを教えてくれました。私を信じて身体を預けて頂いた方に、最高の手術を提供する。でもそれだけが外科医の仕事ではありません。患者さんとの関係は、手術の前、外来での初対面から始まります。それはクリニックの外来でも全く同じです。患者さんの前に出れば、私自身が生きてきたという現実はあらわになります。それは患者さんを導く強さにも、苦しみに寄り添う温かさにも変えることができるのです。これまで、あらゆる診察で、患者さんの生身の姿に接してきました。社長さんなら社長さんとして働くその方ご自身、女優さんなら女優さんとして働くその方ご自身が、お相手です。若輩の自分なりに、自分だったらこんな時に何を思い、何を望むだろうか、と想像を重ね、どうにか寄り添おうとしてきました。その全ての経験から、患者さんの前では私自身が等身大の自分を晒すほかないのだ、と確信に至ったのです。
今後の目標
特別に目新しい目標はありません。奇を衒う必要も無いと思っています。まず、患者さんが幸せに生きていけるよう、医師として当たり前のことを当たり前にやる。良い医療を追求し、勇気をもって実行する。そのためには、今後も「生きること」「医者という仕事」が何かを、自分に問い続けていくのだろうな、と思います。もう一つ、とても大切にしたいのは、医療従事者にも幸せになって頂くこと。私が医療で感じた幸せは、クリニックの全てのスタッフにも是非味わって頂きたいと思います。医療を受ける側も、提供する側も、幸せになる、医師はその触媒となる、これが理想です。患者さんが健やかになり、優れたスタッフが育つという両面で社会貢献になれば、幸甚です。
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