Profile
三井 愛
Ai Mountaineering Clinic 代表
横浜国立大学経済学部卒業後、某業界でOL時代を過ごす。思うところあって聖マリアンナ医科大学医学部に入学し医師に転身。卒業後は呼吸器外科を中心に研鑽を積み、2022年から総合高津中央病院内科常勤医師として、地元川崎北部の救急医療、呼吸器疾患の診療に携わる。医師として活躍する一方、27年間続けてきた登山のスキルを社会に還元したい、山の素晴らしさを多くの人に伝えたいと考え、登山ガイドの資格を取得。患者様、健康に自信のない方の登山のサポートを自分のライフワークにしようと、2022年にAi Mountaineering Clinicを設立し、本格的に「医師ガイド」としての活動を始める。
Doctors Word
落ち着いて探せば、四面楚歌でも必ず突破口がある。
現在の仕事についた経緯は?
私は山が大好きで、約30年間、どんなライフイベントにもめげずに山に登り続けています。年中日焼けして筋肉質なので、病院で白衣を着ていても医師には見えないのではないかと思います。このような私の姿を見て、「先生、何をやっているの」と聞いて下さる患者様が多くいらっしゃいます。「山に登っているんだ」と様々な写真を患者様にお見せしながらお話させて頂きます。「俺は癌だけど、死ぬまでに先生と一緒に富士山に登れるかな」「喘息が治ったら、私も先生と一緒に雪山を見に行けるかな」。病棟や外来で患者様からそのようなご希望を頂くことが少なくありません。医師でありながらこれだけ山に登れる人間は他にいないのではないかと考え、ガイド資格を取って患者様の「登りたい」を叶えることをライフワークの一つにしようと考えました。
仕事へのこだわり
そもそも山のガイドを頼むなら、絶対に私よりも頻繁に山に登っている、ガイド業をメインのお仕事にされている方にお願いする方が安心ではないかと思います。また、医師であっても医療資源の限られている山中でできることはとても限られています。つまり医師である私がガイドをする必要なんてほとんどないかもしれません。それでは「医師ガイド」の役割とは何でしょうか。究極山に行けなくてもいいのです。患者様が私を信頼して「先生と山に行きたい」と思って下さったら、山の話を交わすこと自体が入院生活の小さな希望になりますし、退院後や治療後の目標ができるとリハビリテーションに真剣になって下さったり服薬コンプライアンスが向上したりもします。そして実際にガイドのご依頼を受けたならば、患者様の病態、身体・心肺能力、個別の登山リスクを評価した上で、安全に楽しく登れて、かつ、患者様が体験したいことを体験できるプランを考えることができると思います。
その他、通常の外来の中で登山中のトラブルについての対応を聞かれることもあります。山を仕事としている方々から必要な薬の処方を頼まれることもあります。自分自身がクライミングも雪山も沢登りもなんでもやるので、普通のお医者さんだと分かりにくい山でのトラブルは大抵経験済みですし、お気軽に相談して頂けると思います。
そしてもちろん、登山中に傷病者、遭難者の方に出会ってしまったなら、医師として、ガイドして、率先して救命・救助しようと考えています。
そう思えるようになったきっかけ
医師であるずっと前から私は山女です。もう20年以上も前ですが山で滑落をして大怪我をしたことがあって、登山技術・知識の習得を疎かにしていたことを猛省しました。また、長らく学生登山の引率バイトをしていました。昔なのでガイドさんが同行していたわけでもなく、現場では私が一番山に登れる自信がありました。天気やルート状況から様々な提案をしましたが、ただのバイトの私の意見に耳を傾けて頂けることはありませんでした。それらの経験から「安全登山を追及して、山でみんなから信頼されるために、ガイド資格が取れるくらいちゃんと山に登ろう」と思って山に登ってきました。
その後いつの間にか医師になっていましたが、医師は、患者様の深層心理、死生観、家族事情といった患者様の人生そのものに深くかかわるところで仕事をしています。登山も私の人生ですが、世話好きでお人好しで、話好きな私には医師という仕事も天職で、なるべくして医師になったと思っています。
そのような経緯で自然と「医師ガイド」という存在になっていました。実臨床をこなしながら、幼児からおじいちゃんおばあちゃんまで色んな人と山に登って、山で色んな厳しい経験もしてきた私は、患者様を山にお連れする知識や技術だけでなく、根気強さ、度胸、やさしさを持ち合わせていると思います。
今後の目標
まず、自分自身が素敵で強い山女でありたいです。目標としている山があるのですが、楽しく登って生きて還って来られるよう、命を燃やす挑戦を続けていきたいと思います。
「医師ガイド」としては、例えば、透析患者さんが登山をする場合は体液管理をどうするのか。肺癌術後で低肺機能の患者様にとって無理のない運動強度はどのくらいなのか。教科書にも論文にも答えはありません。医師だからこそ細かく観察し評価できる患者様のお身体の状態と、たくさんの山に登ってきたからこそ知っている景色やルート状況をすり合わせて、患者様が楽しく無理なく登れて、満足できる登山計画をオーダーメイドで考えていきたいと思います。「富士山に登りたい」という方が出たら、数年越しの挑戦になるかもしれませんが、登頂までのプランを考えて一緒に登りたいと思います。
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。