佐野俊二
Doctors Word
医師はプロ、だから差があって当然
とにかく腕のいい医師になりたい
医師になろうと思ったきっかけは、小学校4年生の時に運動会の鉄棒で落ちて左肘を複雑骨折し、町立病院で緊急手術を受けたことです。私の手はとても困難な状態だったらしく、「成功しなかった。手が動かなくなる可能性もある。」と言われましたが、3か月間リハビリに励んだ結果、ようやく手を動かせるようになりました。その時、同じ医者でも人によって腕が違うんだと実感し、自分は腕の良い医者になりたいと思うようになりました。その思いのまま、大学卒業後は岡山大学の第2外科に所属しました。その時の患者の1人に、がんが肺転移を繰り返すたびに入退院を繰り返している悪性骨肉腫の女子高生がいました。どんなに頑張ってもがんはなくならず、転移を繰り返し続けた結果、最後は呼吸ができなくなって亡くなってしまいました。「夢は佐野先生と結婚すること。その夢があったからこそ、つらい抗がん剤治療も耐えることができた」と母親から伝えられた時、癌医師として自分がどれだけ無力なのかを痛感しました。それからは、腕を磨けば命を救うことができる心臓外科医になろうと心に決めました。
私たちは心臓外科のプロです。プロの中で腕に差があるのは当然です。テレビで試合が見れる野球やサッカーでは成績が公表されるため、どの選手がどの位の実力なのかは皆分かります。医療に関しては成績が世間で公表されないため、患者さんの多くは自分の主治医が一軍の選手、もしくは大リーガーかもしれないと考えています。野球でもサッカーでも、プロの世界で一軍の選手になりたければ、努力してその世界の競争に勝たなければなりません。大リーガーになりたければ、それよりもさらに努力しなければいけません。それだけ努力した人の中でも、大リーガーになれるのはほんの一握りです。 それは医療にも共通することで、人の2倍も3倍も努力して初めて、大リーガー級の医師になるチャンスがあると言えます。
仕事を通じて出会った多くの恩師から、プロの心臓外科医としての心構えや考え方を教えていただきました。その教えの中に、私が大リーガー級の医師になるために人よりも努力をしようと思ったきっかけになったものがいくつかあります。寺本滋医師に教わった、医者は「24時間、365日、患者さんのために働きなさい」という言葉、 Sir Brian Barratt-Boyesドクターに教わった、「外科医は多くの症例を経験しなければならないし、イノベーティブな外科医になりなさい、アカデミックな外科医になりなさい、そしてチーム医療が大切である」という言葉、 Roger Meeドクターに教わった、「Great surgeon , Great man」という言葉、「一番簡単なのは、論文を書くこと(症例報告)、次は良いチームを作ること 、最も難しいのは人を育てることである」という言葉などがすべてきっかけになりました。その中でも特に、Sir BrianドクターとRoger Meeドクターは世界中の誰もが知っている超一流心臓外科医です。
医師は、権限と人の命を預かる仕事なので、それだけの決心や心構えが無い人、心と体の準備がない人は手術をするべきではないと考えています。
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。